大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)30号 判決
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【判旨】
3 不当労働行為の成否
憲法二八条は、勤労者の団体交渉をする権利を保障し、これを受けて労組法七条二号は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを禁止しているところ、使用者に課せられた右団体交渉応諾義務は、ただ単に団体交渉の場に出席し、組合の代表者と会えばよいとか、これと会話をかわせばよいというのではなく、当然に、誠意をもつて、誠実に右交渉を行うべき義務をその内容として包含するものと解するのが相当である。
そこで、本件において、原告は、組合との間において、昭和五一年賃上げ及び夏季一時金問題について誠意をもつて、誠実に団体交渉を行なつたかどうか考察するに、右認定事実によると、原告は、右賃上げ等の要求に対し、当初からゼロ回答に終始しているものであるところ、このような場合、使用者としては、右のような回答をせざるを得ない理由が原告の収益が上つていないことにあるときには、賃金の額如何が労働者にとつて最も重要な労働条件の一であることを十分考慮し、右のような回答が已むを得ないものであるかどうかについて、客観的資料に基づき十分検討し、他にとるべき方策がないと考えるときにゼロ回答をなすべきであり、また、右のような回答をなすことが已むを得ないものであることについて労働組合が検討可能な程度の資料を提供するなどして具体的事由を開示し、労働組合の検討に資し、これによつて見解の対立を可能な限り解消させることに努め、妥結に導くよう誠意をもつてことに当るべきが当然である(もつとも、労働組合としても、正当な理由がないのにかたくなに自己の要求を譲るべからざるものとして主張することが許されないものであることは、これまた当然といわなければならない。)。しかるに、本件において原告は、株式会社に組織変更する前後において、欠損金が出たことを主たる事由として賃上げ等には一切応じられないと判断しているのであるが、右認定事実に照らすと、右判断が正当であり、他にとるべき方策がないとまで断ずることには疑問があり、また、原告は、参加人との団体交渉の場においても、参加人を十分説得し、かつ、参加人が検討し得るに足る資料の提示は勿論、具体的事由を示した説明などを十分に行わず、単に利益が上がらないとの理由のみでゼロ回答をするに終始し、また、原告が行なつた賃金改訂に関する具体的提案(請負制又は二段階方式)も、参加人が十分検討し得るだけの資料を開示して行なつたものでなく、右認定のような提案の仕方自体からしても、これを十分検討し、団体交渉を妥結に導くために行なつたものであるかさえ疑わしいものである。さらに、代表取締役後藤良雄は、参加人との団体交渉を後藤忠彦に委ね、自らはほとんど出席しないという状況にあるところ、右のような団体交渉の担当者の決定自体については一概に不当とまでいうことはできないのであるが、本件のごとく参加人の賃上げ等の要求に対し、ゼロ回答をすることが已むを得ず、あくまでもこれを固執せざるを得ない状況にあると判断する場合には、原告の最高責任者である後藤良雄自らが団体交渉の場に出席し、右回答をなさざるを得ない事情などを説明し、参加人の理解、納得を得べく努めるべきであるというべきであるし、殊に本件では、後藤忠彦は原告会社の経営を一応任かされていたとはいえ、賃上げ等の決定については、最終的には右忠彦の一存で決定することはできず、代表取締役の後藤良雄の指示を仰がなければならなかつたのであるから、右交渉にはできる限り代表取締役の後藤良雄自ら出席すべきであつたというべきである。以上の諸点と右認定にかかる諸事情を総合勘案すると、原告は、参加人と昭和五一年賃上げ及び夏季一時金問題について、誠意をもつて誠実に団体交渉をなしたものということはできず、よつて、原告は、結局、参加人との団体交渉を正当な理由がなくて拒んだものというべきであるから、労組法七条二号の不当労働行為を構成することとなる。してみると、被告が本件命令書主文第一項において、原告に対し、昭和五一年賃上げ及び夏季一時金問題に関して、速やかに参加人と団体交渉をなすべきことを命じたのは相当な措置ということができる。
(後藤勇 松山恒昭 小泉博嗣)